後任って

 

……まぁ、いい。

 

そもそも彼女たちが目的とするものに、私は関係ないことだ。

 

 

そう思い直し、起動したパソコンに再び目を落とした。

 

その途端、新着メールが15件の表示。昨日終電ギリギリまでここにいたというのに。

 

 

その内容は物品の注文から、見積もり依頼。打ち合わせの相談など多岐にわたる。

 

 

 

「さて、どれから片付けましょうか」

 

 

 

独り言をこぼしながら髪をシュシュで一つに束ねると、一件一件それを確認していった。

 

 

 

私達の顧客先は専ら病院。彼ら相手に毎日駆けずりまわって医療機器を売っている。

 

 

それは注射器1本からCTやMRなどの大きなものまで。最近では隣の市立病院に最新機器PETを納入した。

 

 

それに加え、今私は病院の新築建て替えという大規模な案件を抱えている。

 

 

そう、とにかく私は目が回るほど忙しかった。

 

 

 

「東雲さん」

 

 

すると突然、課長が私を呼んだ。振り返ると、会議室のドアから中年太りした体を半分だけ出し手招きをしている。

 

なんだなんだ。このくそ忙しい時に。

 

 

 

「はい。なんでしょう」

 

「いいから、ちょっと来て」

 

 

……ッチ。

 

 

思わず舌打ちが溢れそうになるのを堪え、私は課長の元へ向かった。

 

 

「どうしたんですか?課長。私、朝一で仕上げないといけないことがあるんです。手短にお願いしますよ」

 

「ちょっと、中入ってくれる?」

 

「はい?」

 

 

今、手短にって言ったの聞こえたよね?

 

 

「私、今日の会議の担当ではありませんが」

 

「いやいや、違うんだ。ちょっと紹介したい人がいるんだ」

 

 

少しだけだからといって強引に私を中に促す課長。なんなんだ、どいつもこいつもいったい。
ぶつぶつと心の中で文句を零しながら足を進める。

 

するとすぐ、窓辺に立つ男性の姿が現れた。

 

そして私に気が付いたのか、くるりと体を反転させこっちを真っ直ぐ見つめた。

 

 

すぐにあっ、と思った。

 

 

「東雲さん、こちら昨日話した君の後任の樋山くん。赴任は来月からだけど、出張のついでに寄ってくれたんだ。君だけには先に会わせておこうかと思ってね」

 

 

 

……嘘でしょ、と思わず野太い声がでそうになるのを堪えた。

 

 

 

「こちら東雲佐和さんね」

 

 

 

そんな私の心中も知らず、課長は御構い無しにたんたんと話を進める。

 

 

突然のことに、私はわけがわからなかった。