身体が熱くなる

 

「初めまして、樋山です」

 

 

すると唖然とする私の前で、つい数時間前まで戯れていた彼が白々しく挨拶し始めた。

 

恐らく樋山渉と渉は同一人物だ。双子でもない限り間違いない。

 

 

あの眼差し、声、体型。全てさらけ出して抱き合ったんだ。間違えるはずない。

 

 

 

しかし一夜限りだと思っていた男が次の日会社に現れて、しかも上司だなんて。

 

 

ありえない。

 

ありえない、

 

ありえない。

 

 

彼はこうなることを知ってたの?

 

いや、知っていたのなら私とあんなことしないはずだ。

 

 

だけど驚いているようにも見えない。だって彼は一ミリも動揺を見せず、綺麗に営業スマイルをかましているんだもの。

 

じゃあどういうことだろう。

 

「来月からよろしくお願いします」

 

 

呆然としていると、低すぎず、艶のあるあの声でそう言った彼。私も負けじとお得意の笑顔で彼に挨拶を返した。

 

 

「東雲です、よろしく」

 

 

営業先のドクターもイチコロ にしてしまう極上ものだ。

 

 

 

 

「じゃあ、そろそろ僕はこれで。急にお邪魔してすいませんでした」

 

 

暫く課長と談笑した後、彼は腕時計を確認しながらそう言った。

 

 

「いいんだよ。今の時期暇だしね。それに下見だなんて熱心でなにより。期待してるよ樋山くん」

 

「ありがとうございます。どうしても雰囲気だけでも見てみたくて、無理言ってすいません。一緒に仕事ができること、楽しみにしています。東雲さんみたいな意欲的な方もいらっしゃるし」

 

 

そう言ってちらりと私の方を見た樋山渉。

 

その目はベット上で見たものと同じもので、不埒にも昨夜を思い出し身体が熱くなった。

 

 

「それでは失礼します」

 

「あぁ、気をつけて。向こうの課長によろしく」

 

 

樋山渉は小さく会釈して会議室を出て行った。

 

 

その瞬間、外から女子社員たちの悲鳴のようなものが聞こえてきた。

 

 

なるほど。彼女たちが騒いでいた理由はこれか。

 

 

「東雲さん、何ボーッとしているの。彼を下まで送って」

 

 

憮然としていると課長がほら早く、とドアを指差した。

 

 

「え?は?私ですか?」

 

「そうだよ。ほら行って行って。失礼のないようにね」

 

 

まったく、子供じゃないんだからいくら知らない会社でも一人で帰れるでしょ。

 

そう思いつつも、課長に無理やり会議室を出された私は、まとめた髪を外しながら渋々彼の後を追った。