嫌な予感

「私としても、君とまた一緒に仕事ができることを嬉しく思っているんだがね……」

 

 

「ありがとうございます、課長。これからも主任として邁進してまいり……」

 

 

「いや、その主任の件なんだが……」

 

 

 

すると突如、課長が私の言葉を遮った。

 

 

嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

「君が辞めるってことだったから、九州支店から後任が来る予定なんだよ」

 

 

……後任?

 

 

「東雲さんには申し訳ないがそれは白紙にはできない。だから主任ポストからは外れてもらうことになると思う」

 

 

……主任を外れる?

 

 

頭が真っ白になった。課長はその後もなにか言っていたが、よく聞き取れなかった。

 

「平社員に逆戻りだってさ」

 

 

 

グラスの中で揺れるカクテルをぼんやり眺めながらはぁーっと長い溜息をついた。向かいではマスターが無言で頷いている。

 

職を失わなかっただけありがたく思えという声が聞こえてきそうだが、長年努力し続けやっと手に入れた役職だった。

 

 

プライベート返上で勉強会や講演会には常に参加し。女だからってなめられないように人一倍駆けずり回って。

 

それなのにこんな形で失ってしまうなんて。自業自得なのだけどいまいち納得できないし、この歯痒さをどこにぶつけていいかもわからない。

 

 

「あーーっ、もうっ!!全部あいつのせい!なんで私がこんな目にあわなきゃいけないのよ!私の役職返せ!!」

 

 

思いのままそう叫ぶと、やけ酒とばかりに残りわずかになったブルームーンを一気に飲み干した。その瞬間クッと喉が熱くなった。

 

 

強めのをくれとは言ったけど、本当に強いのを出してくるんだから。このベビーフェイスのマスターは。

 

 

「マスター、同じやつちょうだい」

 

「かしこまりました」

 

 

短く答えて素早くシェイカーを取るマスター。相変わらず見惚れる。いったいいくつなのだろう。

 

どう見ても24前後くらいにしか見えない。それなのに独立して、一人で切り盛りしているんだもん。本当、すごい。

 

 

「どうぞ佐和さん。ブルームーンです」

 

「ありがと」

 

 

 

僅か数分の後に出来たカクテルに口をつける。

 

 

するとそれと同時に、客が来た事を知らせるドアの開閉音が聞こえた。

 

カクテル片手に一瞬振り返ると、サラリーマン風の男性が隅の席へと向かうところだった。

 

手元には小さめのトランクケースにスーツ姿。しかも一人。いかにも出張帰りに立ち寄ったと言わんばかりの雰囲気だった。

 

 

その男性は座るやいなやマスターにビールと告げると、一人静かにグラスを傾けていた。